人生100年時代が到来しつつあり、祖父母や両親が認知症を発症するという事例を、ほとんどの人が経験するようになりました。そして、それに伴い患者の財産をどう扱うか、とりわけ相続後にもめないために今できる対策は何か?を考える家族が多いと思います。今回は財産の中でも特に問題となる家や土地の不動産について、事前にできる対策法を説明したいと思います。
重度の認知症・痴呆症で、意思確認ができなくなれば打つ手なし
家族の認知症などのが重度となり、完全に判断能力や意思能力が無くなった場合は、残念ながら不動産や預貯金、株券などの資産の売買や賃貸契約、贈与ができなくなります。もちろん遺言もできません。
親の判断能力が無くなってきたということで、慌てて田んぼや不要な土地を売ろうとされる方がいます。また、老人ホームに入ったので親が住んでいた田舎の実家を売却されたいという方もいます。
しかし、いわゆる”まだら呆け”状態ならよろしいのですが、完全に判断能力を失くしていれば、今の法律では何も動かせません。これは、判断能力を失くした方を保護する目的で、たとえ家族であっても勝手には処分できないのです(資産凍結)。
医学の進歩で身体は元気なのに脳だけ劣化するので、完全に意思能力が無くなってからでもポックリ亡くなるわけではありません。患者の財産はずっとそのままであり、処分するには長期に渡って相続を待つしか手が無くなります。つまり介護期間が長いほど、家族が膨大な労力とストレスを抱えることになるのです。
スポンサードリンク完全に呆ける前に取れる2つの対策
しかし、ご本人の治療にどうしてもお金が必要とか、道路拡幅など行政の政策で土地を提供しなければならないなど、杓子定規に判断能力が無いからダメというのでは、個人の人生や経済が硬直してしまいます。そこで、まだ意思が確認できる間に対策できる任意後見制度と家族信託という2つの方法をご紹介したいと思います。
任意後見制度
今は大丈夫でも将来は認知症になるかも・・・という人が、事前に公証人役場で後見人と任意後見契約を公正証書で結んでおく制度です。実際に効力が出るのは、認知症の症状が出始めて、家庭裁判所に申し立てをして、本人が選んだ後見人がきちんと仕事をしているかチェックする任意後見監督人の選任をしてもらってからになります。
なお、任意後見契約においては任意後見人を誰にするか、どこまでの後見事務を委任するかは話し合いで自由に決めることができます。
精神上の障害がある方の後見人は、家庭裁判所が指名することと比べると自由度の高い制度ですが、デメリットがないわけではありません。例えば、家庭裁判所や後見監督人に定期的に報告が必要です。更に後見人や後見監督人に対しては一生報酬を支払い続ける必要があります。家族を後見人にする場合は、報酬は安くてすみそうですが、他の家族との軋轢を生む可能性もありますので、注意が必要です。
家族信託
財産を管理するための方法の一つで、資産を持つ方が、自分の老後資金の管理など特定の目的に従って、自分の持つ不動産や預貯金等の資産を信頼できる家族に託し、その管理・処分を任せる仕組みです。家族・親族に管理を託すので、高額な報酬は発生しません。したがって、資産家のためのものでなく、誰にでも気軽に利用できる仕組みです。
この仕組みには、委託者(本人、親)、受託者(子など)、受益者(本人など)が存在します。受託者というのは、委託者から財産の管理・処分を任された日とのこと。受益者というのは、その信託財産から給付を受ける権利がある人のことです。委託者が受益者になることもあります。
例えば、委託者と受託者が同じ本人の場合です。認知症を発症したら銀行預金は凍結されてしまいます。しかし、家族信託で子供を受託者にしてあれば、子供が引き出して受益者である親に現金を渡すことが可能になります。
また、信託された不動産に関しては、目的に売買の条項があれば、受託者が売ることも可能です。この場合の売買代金は受益者に渡ります。
家族信託は任意後見制度よりも自由度が高く、遺言機能も一部持っているため、最近はよく利用されていますが、これもデメリットがないわけではありません。
詳しくはここでは述べませんが、特に税金面でのメリットはありませんので、相続税対策として使用するには適していません。
認知症対策は、法律の専門家に早めに相談を
任意後見制度にしろ家族信託にしろ、素人が自分でやるには難しい部分が多いのですので、弁護士・司法書士・行政書士などといった専門家に相談することをお勧めします。
まずはざっくりした相談をしたいという場合は、私の所持する公認不動産コンサルティングマスターやファイナンシャルプランナーなどでもよろしいかと思います。
また、プライベートカンパニーといった資産管理会社を利用して、認知症を発症しそうな人の財産を法人資産とする方法もありますが、一般の方にはちょっと実行しにくい手法です。ご興味ある方は弁護士、公認会計士、税理士にご相談下さい。
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